老舗の暖簾は、駅伝のタスキ
― 陸上部を持つ高級えびせんべい屋 ―
桂新堂 7代目社長:光田敏夫さん
おうち時間に「ワクワク」をお届けしたい。
「お取り寄せ」を楽しんでいただくための商品開発を!
慶応2年創業の『桂新堂』といえば、全国の百貨店にも進出する高級えびせんべいの老舗。国産の「車えび」や「ぼたんえび」の姿をそのままに焼きあげた「姿焼き」は、見るからに福々しい。この「姿焼き」と「磯焼き」(甘えびの「あられ焼き」と「渦巻き」)を詰め合わせたのが『海老一会』。さらに「芝えび」を加え、4種の海老の旨味と食感の違いが堪能できる「炙り焼き」をセットにした『海老づくし』などは、ご進物として不動の人気を誇る看板商品。いただく側はもちろんのこと、贈る側も、先方が箱を開けた時、口にほおばった時の感激を想像して、思わずワクワクしてしまう、そんなお菓子たちである。
ところが、2020年早春に世界を襲ったコロナ禍で百貨店の売り上げは激減。名古屋市の金山にある本店は、1階が売店、地階がお食事処の百福庵、2階が甘味処の活創庵となっており、コロナ以前の昼時には海老をふんだんに使ったランチ目あての人々で店舗前に行列ができていたという(現在は予約制に)。その本店も、緊急事態宣言を受けて、4月の中旬からゴールデンウィーク明けまで店舗を閉めた。創業150年を超える老舗ですら、商品のラインナップや販売戦略の練り直しを余儀なくされたという。
ところが『桂新堂』は、わずか半年の間に新商品4種を開発し、WEBでの販売ルートを開拓、なおかつ同時に実店舗の対面販売ならではの強みを生かす販売戦略を打ち出す。心が折れてしまいそうな大きな負荷も、まさに海老のごとくしなやかに跳ね返してしまう不屈のリーダー『桂新堂』7代目・光田敏夫社長(64歳)にお話をうかがった。見ての通り、ご年齢を感じさせない、実に爽やかな笑顔が印象的な社長さんである。
―― 光田さんが家業である『桂新堂』を継がれて、今回のコロナ禍の打撃が最大の苦境でしたか?
光田さん「はい、間違いなく、そうですね。私どもは、実店舗や百貨店での対面販売が売り上げの99%を占めていました。ところが4月、5月は、百貨店が軒並み閉まっておりましたので、売る場所がない訳です。その後も、外出の機会、ご訪問の機会が減った状況下での売り上げダウンは大きな痛手でした。コロナ禍で痛感しましたのは、私どもの製品は、つくづく“人様に差し上げるお菓子”に特化していたのだな……ということでしたね。しかも、季節感を大切に、四季折々のイベントに合わせた商品展開もしておりましたので、母の日用・父の日用の商品などは、店頭に並ぶことなく、泣く泣く廃棄しました。
人々がうちに籠り、集わない生活を送る中、インターネットを介してでも取り寄せて楽しみたい、自分一人のため、あるいは家族のための、500円、600円の気軽な価格帯を増やす必要があると痛感しました。これまでも、その価格帯の“かわいい和”というシリーズの商品があったのですが、それもちょっとした贈り物として配っていただけるような、いわゆる “人様に差し上げるお菓子”だったんですよ」
―― 自分用のお菓子をインターネットで買うとなると、送料のことを考えて、まとめてお取り寄せしたいですよね。
光田さん「“かわいい和”は、縁起物や日本の昔話、四季折々の季節を感じ取ってもらえるような絵柄がプリントされた商品や、モチーフの型抜き商品など、もらって嬉しい、目にも楽しい商品はありましたが、いかんせん味の変化が乏しい。まとめてご自宅用にインターネットなどでご購入いただこうと思ったら、“あっちもおいしそう” “こっちもおいしそう”と感じていただかなくてはいけません。そこで、味に個性を持たせた商品開発が急務だなと考えたのです」
―― “味わう和”シリーズの誕生ですね。
光田さん「まず第一弾が『こんがりえびチーズ』です。香ばしい相性の良い二つの風味が後を引きます。9月末から『桂新堂』のオンラインショップでの販売も始まっています。
さらに、これから“ポテトとえびの王道とも言える組み合わせでの新しい味わいのご提案”、“アーモンドスライスをぎっしり練り込んだ食感も楽しいえびせんべい”、“梅シソのあられをまぶしたあられ焼き”、“えびショコラ(仮称)”、“プレーン味”、“いちご味”、“抹茶味”など、個性あふれる味わいのお菓子をずらりと並べて参りますので、5個、10個と買い込んでいただき、もしも“お、これは!”と感動していただけるものがありましたら、ご友人に気軽にお配りいただけたら嬉しいですね。」
楽天市場やAmazonといった大手のECショッピングモールでの販売も開始。12月には、ネットでの販売を本格化させる。もちろん、ご進物は、あえて百貨店まで足を運んで、目で見て、手に取って選び抜いて贈りたいという想いのお得意様への配慮も忘れていない。
―― 「ネットとリアルの違い」のようなものを明確に打ち出していこうとされているそうですね。
光田さん「ネットでも買えるものを、あえて実店舗でもお買い上げいただくのですから、足を運んだ甲斐があったと感じていただくことが大切ですよね。いくつかの店舗では、実験的にもうはじめているのですが、ご進物用の化粧箱入り商品でも、はじめてのお客様に“どのようなお味ですか?”と尋ねられれば、その場でビリッと包装を破って、ご試食いただくことにしたんです。皆様、眼を見張って、それはそれは驚かれているそうですが、私たちの想いが伝わるようで、たいへん喜んでいただけているようです。」
食べてさえいただければ、きっと選んでいただける、そんな自信を感じさせる、さすがのサービスである。