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名古屋アイクリニック

素敵なVisual Life

結婚してからは一度も喧嘩してないの。
それが私たち夫婦の一番の自慢

画家:三輪光明さん(80歳)
声楽家:三輪弘美さん(79歳)

アイザック・スターンのチケット2枚と、
天から降ってきた素敵な贈り物

光明さん「実は、結婚25周年を迎えた年、毎日新聞の2分の1面を割いて記事にしていただいたことがあるんです。1993年の11月22日“いい夫婦の日”に、“夫婦の数だけドラマがある”というタイトルで。」

結婚25周年を迎えた1993年11月22日のいい夫婦の日、三輪夫妻を取り上げた特集が毎日新聞に掲載された。

弘美さん「私たち、結婚してから一度も喧嘩をしたことがないのが、夫婦としての唯一の売りなんですよ。ただ、お付き合いをしている間は喧嘩ばかりでしたね」

光明さん「宗教観が違ったんですよ。僕のほうは、曹洞宗の澤木興道という偉いお坊さんについて座禅をやっていて、たびたび断食をしに山に籠ったりしていました。最長13日間の断食も体験しました。ところが、妻のほうは敬虔なクリスチャンでしたから」

弘美さん「“今度、教会に来てね”なんて誘おうものなら、“愛してはいるけれど、宗教は別だ”とか言われて、そこからチャンチャカ・チャン・チャン・チャンと始まるわけです。彼は大学卒業と同時に名古屋に帰ってしまっていましたから、それから先は高崎と名古屋の遠距離恋愛でした。それでも1カ月に一度は、名古屋で会ったり、高崎で会ったり、真ん中の静岡や軽井沢で会ったりと、お互いに行き来しながら交際を続けていました。

そんなお付き合いから3年経ったところで、彼にクリスチャンになってもらうのはもう無理だと、私のほうから諦めました。私の勤め先の高校の先生方にも、“よぅ、坊さんは元気か?”なんてからかわれるほど、彼は信心深いことで有名でしたし。私は私で、ともにクリスチャンとして生きていける人と結婚すると心に決めていましたから、名古屋の彼にお別れの手紙を書いたんです。

そうしたら、 “お別れはしかたないけれど、今度、東京文化会館であるアイザック・スターンのコンサートはどうするんだ。行ってもいいんだろうか。席が隣同士になるけれど”って、彼から電話がかかってきまして(笑)。私たち、1年くらい前に購入したチケットを1枚ずつ持っていたんです。そこは、音楽家の卑しいところで、“どの音楽会に行っても、見ず知らずの方と隣り合って座ることはあるわけだし、いいんじゃないの?”などと答えてしまうわけです(笑)。世界一のヴァイオリニストで、当時の私の月給ひと月分くらいの高額なチケットでしたしね。

そして、いよいよコンサート会場で隣り合って座ることになるんです。お別れだっていうのに、スターンの演奏があまりにも素晴らしくて、いろんな思いがこみ上げて泣けてきてしまいました。涙ながらに外へ出ると、会場に入るときには何でもなかったのに、大雪で真っ白に! その光景に驚きながらも“これでお別れね”と私が口にすると、彼が“いや、この雪では途中で高崎線が止まる。この状況で君だけを帰すわけには行かないので、高崎まで送る”っていうんです。

確かに、列車は立ち往生して、大宮あたりで列をなして止まってしまいました。上野を出たのは21時頃でしたが、高崎についたのは翌朝の5時。当時は携帯電話もありませんから、駅についてすぐに公衆電話から母に電話をして、“三輪さんに送ってもらったけれど、ここでお別れする”と告げたんです。そしたら、母にひどく怒られましてね。“せめて朝食をとってもらって、お風呂に入って仮眠をとっていただいてからお帰りいただくのでなければ、母の顔が立ちません!”と」

光明さん「それで、下宿まで送って行きまして、“これでお別れだけど、君のために君の神様にお祈りするよ”と言って、“アーメン”と一言、口にしたんです。すると、不思議なことに、コロッと気持ちが変わってしまって。あっ、僕は今、クリスチャンになったんだ、この祈りは神に届いた……と感じました。それで、“神に聞き届けられたから、君は必ず幸せになるよ”とだけ言ってお別れしました」

―― えっ!? 改宗を決意されたのに、お別れしたんですか?

弘美さん「彼が名古屋の教会に通いはじめたと聞いて、非常に複雑な想いでしたが、私は自分から別れを切り出した身でしたから……。そうしたら、私の通っていた教会の牧師様と彼の教会の牧師様が、宗教の問題だけで別れたのだから、障害がなくなった今、二人は一緒になるべきだろうとご相談なさったみたいで……、私に名古屋の教会員に三輪光明さんという良い青年がいるんだが、お見合いだと思って、ご結婚相手にどうだろうって(笑)。私たち、あの日、大雪が降っていなければ結婚していなかったでしょうね」

事前にとってあったアイザック・スターンのチケット、二人にとっては天から降ってきた贈り物のような大雪、お母様の温かな叱責、牧師様同士の粋なおせっかい、まさに神の思し召しで、結ばれたご夫婦だったのである。

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